人の暮らし(7)・電柱の風景

世界中のどこにでもある電柱。
通行の邪魔になったり美観を損ねるなどという理由で、ともすると目障りで敬遠されがちですが、電柱が運んでくれる電気の恩恵を思えば、日々の暮らしに欠かすことができない存在であることは今さらいうまでもありません。

下の6枚は当地の電柱を無造作に選んで写した写真です。架線や建柱方法などについて、素人なりにチョッピリと考えてみました。


不要になった線が電柱に放置されたままです。めずらしい光景ではありません。
一部の線は断線していて、垂れ下がっている。誰が見ても、あまりにも乱雑で見苦しいありさまです。


これがふつうの架線ですよね。スッキリとしています。ちょっとわかりずらいかもしれませんが、この道は左にゆるいカーブをなしているので、電柱が左に少し傾斜しています。日本なら電柱を支えるために右に支線を打つでしょう。


これは上の写真とは逆に、ゆるい右カーブの道なので、電柱が右に少し引っ張られて傾いています。日本なら電柱の左側に支線を入れるでしょう。


T 字路の電柱です。トライシクル(三輪車)の向こう側と右に通じる道への配線を、3本の電柱が担っています。雑な架線です。3本の電柱の左側には支線が見えますね。支線がなければ、もうとっくに3本とも倒壊しているでしょう。
ほとんどの支線は支線カバーもなくむきだしのままです。たまに倒壊している電柱にお目にかかることもあります。


「く」の字状の道路の角に建柱されているために、右側に大きく傾いています。支線は入っていますが、まったく用をなしていない。
支線が伸びきっていて、40度くらい傾斜している電柱を見かけることもあります。


各家々への引き込み線は、当地ではコンクリートの小柱ではなく、鋼管柱を多用しているようです。

経済発展が著しい近年のフィリピンでは、主だった都市部で電力の地中化が進んでいますが、貧困地区では電気を引くこともできません。

フィリピンの電気代は、ほかの生活物資に比して割高です。
20年くらい前までは「盗電」の問題がよく新聞に掲載されていました。貧困居住地の住民が本線から無断で線を引いて電気を盗む。

いまでも盗電が行われているかどうかは確認していないのでわかりません。盗電をした者は、顔写真と名前・住所が新聞で世間にさらされて、いわば「さらし者」扱いされた記事を、当時読んだことを憶えています。

日本とフィリピンの電気で一番の違いといえば、やはり、「電気の質」でしょう。日本にいたときはまったく意識したことはなかったのですが、当地で生活を始めてから強く実感するようになりました。

5年ほど前には、ちょっと田舎の村や町では停電がよくありました。このごろは少しずつですが改善されているようです。街の一般住宅地でもたまに停電が起きます。

停電と並んで気になるのは、電力(電圧)が突然低下することです。
たとえば扇風機をつけていたとする。扇風機の風の勢いが急にヘナヘナとしぼんでしまったりします。しばらくしてまた元にもどる。
また電灯の光がチカチカして、瞬間的に少し暗くなったりすることもあります。

移住したてのころ、日本から持ってきた海外仕様の電気炊飯器が4,5カ月でお釈迦になったことがありました。象印炊飯器で結構な値段の優れものだったのですがね。
原因は不安定な電力(電圧)によるものです。炊飯器のセンサーが故障してしまいました。

日本製の海外仕様の電化製品がダメになったという話は、以前、当地に住む日本人からよく聞いたことがあります。

電柱はときに邪魔者扱いされることがありますが、こうした感情は主に先進国といわれる国々に顕著で、フィリピンのような発展途上国では稀薄のような気がします。

かつての日本でも、経済的に貧しく日々の生活に追われていた時代には、電柱の架線や傾斜などに注意を払う人びとは少数だったのではないでしょうか。

生活が安定して人びとの気持ちに余裕ができてくると、今まであまり気にしていなかった社会環境にも目が向くようになり、美観景観を損ねるような電柱は地中化すべきだとか架線の効率化だとか傾斜といった問題などにも注意を払うようになります。

日本が敗戦から立ち直って高度成長を成し遂げるまでは、日本の電柱も当地の度を越した惨状ほどではないにしても、やや似たような状況にあったのではないかと、うすぼんやりとした記憶ですが思い至るのです。

不測の事態が起きないかぎり、電柱の粗雑な架線や傾斜などは、ほったらかしのままでしょう。これから先も対症療法的な措置でしのいでいくと想われます。

村や町ばかりでなく city(都市)でさえも、場所によって、降雨のあとの道路冠水や歩道のデコボコ、やせ細って皮膚病にかかった野良犬の姿などなど、好ましからざる点をいくつも挙げることができます。

それでもなお、フィリピンの将来には、希望がひとつあります。それは、人的資源です。
あり余るほどの若い働き手の総力と知恵が、どのような形でも結集されたときこそ、社会インフラも見違えるように整備されていることでしょう。そう願います。

2023年7月29日・記

コメント

  1. おっしゃる通りこの国の最大の財産は人だと思います。他の東南アジアと比べても類を見ない明るさと、人懐っこくフレンドリーな感じです!
    しかしながら、国民の数パーセントがOFW ではありませんか!
    其れは、この国の賃金又は働く場所の問題もあるのではないでしょうか?
    私が思うにこの国には重厚超大産業は非常に少ないと思います。
    其れは、華人華僑等の人がてっとり早く物を右から仕入れて、左から売るというようなことをしているからだと思います。
    多くの資本と、長い時間がかかる産業こそが必要に思われます。
    もっとも、家族の誰かが外人と結婚するとすぐに仕事を辞めてしまう、やからが居るのも事実ですがね!
    じゃ、振り返って今の日本はどうかなと思うと、衰退の一途を辿っているのではないでしょうか。
    高齢化等の問題も確かに有ると思いますが、個人的な感想ですが、戦後の学校教育が大きく関わっているのではないかと思います。
    いくら通信簿に4と5ばかりでも、1とか2かが一つでも有るとダメだ。
    レベルを求める教育がそのまま社会に出ても人と同じような意見、仕事、服装等では突出した人間は出てこないと思います。
    もっと自由に、もっといろんな意見がある人を育てないといけないと思いますが、いかがでしょうか?
    「バサックの隠居」

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  2. 「バサックの隠居」さま

    コメントをありがとうございます。
    フィリピンには労働力があふれていますが、今のままでは、将来に希望が持てないことは自明の理です。より良い暮らしはいつまで経っても「絵に描いた餅」に終わるでしょう。
    フィリピン人の海外労働者は、全人口の一割を超えて、一千万人以上もいます。2,3年前の統計ですが、彼らが毎年、出稼ぎに行った国々から送金する金額は、フィリピンの年の国家予算の一割を優に超えるそうです。
    日本は慢性的な少子化の影響で人口が激減しています。国の力もどんどん衰退しています。日本はやっと重い腰を上げて、幅広い産業分野に外国人労働者を受け入れることにしたようです。
    これからは今まで以上に多くのフィリピン人が日本での働き口を得られるようになると思います。
    海外で働くフィリピン人が自国にいる家族のために送金する額は、2,3年前をはるかに超えて、フィリピン経済を支える大きな一助となることが期待できます。
    生活が少しでも楽になれば、その分だけ人びとは自国の不備に目を向けることができるかもしれません。そして10年後か20年後かはわかりませんが、知恵と勇気のあるフィリピン人の一団が先頭に立って、必要な産業を興すことも可能になるかもしれません。ぜひともそう願います。

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  3. 1枚目の写真かなり酷い状態ですね。ケーブルの巻止めは日本でも見かけますがあれだけ酷いのはないと思います。そもそも巻止めは新規のお客さんに利用するために簡易的に行うものですが、ちょと違うみたいですね。電柱設置業者や近所から苦情来ないのかな、来ても放置ですかね、これもお国柄なのかも知れませんが‼️

    ずっと前から分かっていたことですが、日本も少子高齢化で働き手がいないと大騒ぎしています、2025年には3人に一人が75歳以上5人に一人が65歳以上になり介護職が30万人不足するそうで外国人の労働規制を大きく緩和するようです。しかしながら円安が145円超えになり日本を目指す外国人(特に東南アジアの方々)かなり少なくなっているそうで、さらには日本を脱出する外国人も少なくないとのことです。
    まあ一般的な仕事は何とかなるかもしれませんが、防衛費を倍増した自衛隊も人員不足で困っているようです。調布市の住宅街に住んでいるので、3月、4月に「本年度分、自衛官募集中」のチラシが何回か投函されてましたが、初任給、高卒179200円大卒188800円、ボーナス年二回その他手当てあり、陸自で4年勤務した場合、退職金2085000円、宿舎費、食費無料ですが今年度も定員割れのようです。大地震、台風その他災害が有ると動員されて武力衝突が起きればいの一番に死ぬかもしれないのにちょと給料安過ぎやしませんか?!

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  4. 「匿 名」さま

    コメントをありがとうございます。
    電柱の不要ケーブルは、いつまで経っても、放置されたままです。雨後の道路冠水もまた、相も変わらずです。

    日本の人口減少は国力の衰退につながる大問題です。経済ばかりでなく将来の国防の危機にも瀕しています。
    最近はよくYouTubeをみることが多いのですが、石原慎太郎の正論に、今さらながらに強く共鳴します。良き友人であった三島由紀夫と天国で、日本の行く末を憂いていることでしょう。
    以前にも書いたことがありますが、すべては敗戦後のアメリカに押しつけられた「平和憲法」の悪弊が原因です。
    また、SNS の浸透がもたらした過度の愚劣な大衆の意見の氾濫も、国に悪影響を及ぼす危険があります。国家の重大な決定事項でさえも、下劣すぎる大衆に迎合して、選挙の票につなげようとする情けない政治家もいます。
    素朴な結論ですが、安易な世間の風潮に踊らされないように、自分の考えをきちんともつことが基本ではないかと思います。

    ブログは今、ちょっと怠けてしまっていますが、すぐに再開します。よろしくお願いいたします。体調にご留意してください。


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